暮 ら し の 醸 造 所
コンペ案
所在地 : 国立競技場跡地
主要用途 : 公園
構造規模 : 回廊部分 木造平屋建て
竣工 : 未定
敷地面積 : 113,366㎡
境界のない家 ― 生と建築と死と 誰もが分け隔てなく還れる、還りたいと思える安息の地 ―
敷地は国立競技場跡地である。外苑前駅からの銀杏並木、明治神宮、新宿御苑の緑と連なり、都市の中の風景を創りだす。
そこはそれぞれの目的地に向かうための通り道にする人たち休日を楽しむ家族やカップル、広大な芝生を走り回る子供たちで溢れている。その風景からは生が感じられる一方で、死を受け入れ、死者との別れに訪れる人たちもいる。
敷地内にはそれぞれ死を迎え入れてくれる場所が存在する。
死者の遺灰を散骨する場、鎮魂の丘、鎮魂の森、死泉(しせん)、静の庭(花畑)である。動の庭は、子供たちの遊び場でもある。
ボール遊びのできない規制のかかった公園が多い中、自由にボール遊びができる公園ではあるが、時に周りの状況を判断し、どんな遊びをしていいかを考え、選択することを学ぶ公園でもある。
鎮魂の丘・鎮魂の森の「鎮魂」には、魂を落ち着かせる意味、魂を動かすという二つの意味があり、生から死へ、死から生への循環を現している。死泉は、生きることに価値観の重心がかかり過ぎている世の中に対して、万物の根源である水、水から生まれた万物を水に還す、死を見つめなおすことで共生への有難みを現している。
唯一ある建築は、メインアプローチから入り、東西の通りの棟と交わり、そこから先は鎮魂の丘へのアプローチとなっている。陽は東から昇り、西に沈み、そしてまた東から昇り、西に沈む。そこには日常が繰り返され、生死が循環され、自然が循環している。その循環を建築と通りで方角性を強調することにより表現している。
素材は、土に還る杉、瓦、石で構成され、建築自体も循環することを考えている。
死者を「土」「水」に還す。小動物、虫たちの死骸が土に還る。木々が枯葉を落とし、その枯葉が土に還り、木々の栄養分となる。その健全な土から養分を得た木々は元気に育ち大地に根付いていく。水が循環するためには土が重要である。山に降った雨が土に吸収され、地下水、湧水を生み、そして植物は根を張り、栄養分や水を吸収することができる。
土がなければ、山は削られ、岩と化し、森や草原がない風景が生まれてしまうだろう。
土がいかに生きている生物すべてに重要だということがわかる。そして、その土から育った食料を我々人間は食し、生きている。
自然の摂理から土の大切さを知る。全ては循環である。
動物や昆虫たちはその自然から生を受け、その自然で死を迎える。人はそこで死に絶えることはないが、死を見届けるものが死者の希望を聞き、還る場を選ぶことができる。生と死に境界はなく、生と死が混在した公園である。死者に対して性別、年齢、国(肌の色)、死生観の違いが強い宗教の間にも決して境界はなく、それぞれが好み選んだ場に散骨することができ、人間だけではなく動物から昆虫までがそこで死を迎え、そこが還る家となる。
万物に対して境界がなく、人間だけが抱えている諸問題の境界も一切ない、万物を受け入れてくれる、万物が還ることのできる家。
それが境界のない家であり、究極の「 太っ腹な家 」ではないだろうか。
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